第11回:最終課題:プロジェクト始動
授業目標
- 最終課題の全体像と評価基準を完全に理解する。
- チームを結成し、効果的なチームワークのための役割分担と基本ルールを設定する。
- 自身の専門分野や興味に基づき、「AIで解決すべき身近な課題」を発見し、プロジェクトのテーマを設定する。
講義・ガイダンス
1. 最終課題の再確認
第10回で提示した中間課題のテーマを発展させ、最終的なプレゼンテーションへと昇華させる。
- テーマ: 「身近な課題を解決するAIアシスタントの企画立案とアルゴリズム設計」
- 提出物: 企画提案書、プレゼンテーション用スライド
- 評価の核心: 企画の斬新性だけでなく、その企画に潜むリスクを予見し、対処するための**AIマネジメント計画**(倫理ガイドライン、品質管理手法など)が具体的かつ現実的であるかを最重要視する。
2. チームビルディングと課題発見
- 効果的なチームとは: 心理的安全性、明確な役割分担、共通の目標設定の重要性。
- 課題発見のフレームワーク:
- 自身の体験から探す: 日々の学生生活で感じる「不便」「非効率」「もっとこうだったら良いのに」をリストアップする。
- 他者への共感から探す: 友人や後輩が抱えている悩みや困難をヒアリングする。
- 専門分野の視点から探す: 自身の専門知識(セキュリティ、AI、先端IT)を活かせば解決できそうな学内の課題を探す。
グループワーク
- チーム結成 (3〜4名): これまでの演習等を参考に、チームを結成する。
- 役割分担: 各チームで、リーダー、書記、タイムキーパーなどの役割を暫定的に決定する。
- ブレーンストーミング: 「AIで解決したい、岩崎学園の学生生活における課題」をテーマに、付箋などを用いて自由にアイデアを出し合う。
- テーマ選定: ブレーンストーミングで出たアイデアの中から、最も挑戦的で、かつ5週間で形にできそうなテーマを一つ選定し、その理由を明確にする。
- 次回までの課題: 選定したテーマについて、より具体的な課題背景や現状をリサーチし、簡単なサマリーを準備する。
第12回:企画立案演習(1):アイデアをカタチに
授業目標
- 抽象的な課題を、具体的なAIアシスタントの企画へと落とし込む。
- ターゲットユーザーを明確にし、そのユーザーの視点から企画を評価・改善する手法を学ぶ。
- アイデアソンを通じて、チームでの創造的な問題解決プロセスを体験する。
講義・ガイダンス
1. 企画を具体化する手法
- ペルソナ設定: 企画したAIアシスタントの典型的なユーザー像(学部、学年、ITスキル、悩みなど)を具体的に設定する。これにより、機能の優先順位が明確になる。
- ユーザーストーリー: 「[ペルソナ]として、[目的]を達成するために、[機能]が欲しい」という形式で、ユーザーがAIに求める価値を言語化する。
- 機能リスト(要件定義): ユーザーストーリーに基づき、AIアシスタントが持つべき具体的な機能をリストアップする。
グループワーク (アイデアソン)
- 課題の再定義: 前回のリサーチ結果に基づき、チームで取り組む課題をより具体的に定義する。
- ペルソナ作成: チームのAIアシスタントが助けるべき、架空の学生「ペルソナ」を1人作成する。
- ユーザーストーリーのマッピング: 作成したペルソナが抱えるであろう複数の課題を、ユーザーストーリーとして書き出す。
- 機能のブレインストーミング: 各ユーザーストーリーを満たすためのAIの機能を、自由に発想し、リストアップする。
- MVP (Minimum Viable Product) の決定: リストアップした機能の中から、「これさえあれば、最低限ユーザーの課題を解決できる」という核となる機能(MVP)を決定する。最終課題では、このMVPのアルゴリズムを重点的に設計することになる。
第13回:企画立案演習(2):AIマネジメント方針の策定
授業目標
- 自身が企画したAIに潜む、技術的・倫理的リスクを多角的に洗い出す。
- 洗い出したリスクに対し、具体的な対策となる利用ルール(マネジメント方針)を策定する。
- 企画の「攻め(利便性)」と「守り(安全性)」の両面を考慮した、バランスの取れた提案をまとめる。
講義・ガイダンス
1. リスク分析の再実践
第2回で学んだリスクマトリクスを再利用し、より具体的な自分たちの企画に適用する。
- リスクの洗い出し: 個人情報漏洩、バイアスによる不公平、ハルシネーションによる誤情報、著作権侵害、プロンプトインジェクションによる悪用など、あらゆる可能性を検討する。
- リスクの評価: 洗い出した各リスクの「発生可能性」と「影響の大きさ」を評価し、優先順位を決定する。
グループワーク
- リスクのブレインストーミング: チームの企画について、考えられるすべてのリスクを洗い出す。
- リスクマトリクス作成: 洗い出したリスクをマトリクス上にプロットし、特に優先度の高い「高リスク」項目を特定する。
- マネジメント方針の策定: 特定した高リスク項目それぞれに対して、具体的な対策を検討し、AI利用のガイドラインや運用ルールとして明文化する。
例:
リスク: 「履修計画AI」が、特定の楽な授業ばかりを推薦し、学生の成長を阻害する。
対策(方針): ガイドライン第1条「本AIは、学生のキャリア目標達成を最優先とし、安易な単位取得を助長する推薦を行わない。推薦アルゴリズムには、卒業生の履修履歴とキャリアパスのデータを組み込み、その論理的根拠を提示する。」
- 企画提案書への反映: 策定したマネジメント方針を、企画提案書に正式な項目として追加する。
第14回:プレゼンテーション準備
授業目標
- 企画の魅力と信頼性を、限られた時間で効果的に伝えるストーリーテリングの技術を学ぶ。
- 専門用語を避け、誰にでも理解できる言葉でプレゼンテーション資料を作成するスキルを習得する。
- チーム内でのリハーサルと相互フィードバックを通じて、プレゼンテーションの品質を高める。
講義・ガイダンス
1. 聞き手を惹きつけるプレゼンテーションの構成
- 「問題 → 解決策 → 実現方法」の黄金律:
- Problem (問題): この企画は何を解決するのか?(共感を呼ぶ)
- Solution (解決策): 我々のAIアシスタントがどう解決するのか?(興味を引く)
- How (実現方法): なぜそれが実現可能なのか?(信頼を得る) - ここでアルゴリズム設計とマネジメント方針が活きる。
- デモンストレーションの重要性: AIとの対話例など、具体的な利用イメージを示す。
- 質疑応答の準備: 想定される質問とその回答を準備しておく。
グループワーク
- ストーリー構成: 上記の黄金律に基づき、プレゼンテーション全体の流れ(ストーリーボード)を作成する。
- スライド作成: 各自で分担し、プレゼンテーション用のスライドを作成する。図やデモ画面を効果的に使用し、視覚的に訴えることを意識する。
- リハーサルと相互フィードバック: チーム内で時間を計りながら発表練習を行う。他のメンバーは聞き手として、「分かりにくかった点」「もっと強調すべき点」などを具体的にフィードバックする。
第15回:最終プレゼンテーションと総括
授業目標
- チームで作り上げた企画とアルゴリズム設計、マネジメント方針を、自信を持って発表する。
- 他チームの発表を評価的な視点で聞き、多様なアプローチを学ぶ。
- 本授業で学んだ「AIをマネジメントする」という視点が、自身のキャリアにおいていかに重要であるかを再認識する。
授業の流れ
- 最終プレゼンテーション (各チーム 発表7分、質疑応答3分):
- 各チームが、第11回から第14回までかけて準備した最終成果を発表する。
- 教員だけでなく、他の学生からも質疑を受け付ける。
- 相互評価:
- 各学生は、自チーム以外の全チームの発表に対し、指定されたルーブリック(評価基準表)を用いて評価を行う。
- 総括とフィードバック:
- 教員から、全体の講評と、各チームへの簡単なフィードバックを行う。
- 本授業の学びを振り返り、未来のIT専門家としての心構えを確認して、全15回の授業を締めくくる。
【最終コラム】アルゴリズムを導く二つの論理──演繹法と帰納法
これまでの講義で、我々はアルゴリズムの設計、そしてAIのマネジメントについて学んできた。しかし、そもそも、その「アルゴリズム」という設計図は、我々人間の思考の中から、どのようにして生まれてくるのだろうか。
その根源には、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの時代から続く、二つの対照的な論理的思考法が存在する。それが「演繹法(Deduction)」と「帰納法(Induction)」だ。この二つの思考法を理解することは、君たちが未来のIT専門家として、新たなアルゴリズムやAIを生み出す創造主となるための、最後の鍵となるだろう。
演繹法:ルールから結論を導く、確実な道
演繹法とは、普遍的な、あるいは確立されたルール(一般法則)から出発し、それを個別の事象に当てはめることで、論理的に必然な結論を導き出す思考法である。「トップダウン」のアプローチとも言える。
- 一般法則(大前提): すべての人間は、いつか必ず死ぬ。
- 個別の事象(小前提): ソクラテスは人間である。
- 結論: したがって、ソクラテスはいつか必ず死ぬ。
この結論は、前提が正しい限り、100%真実である。ここに曖昧さや確率が入り込む余地はない。
そして、この演繹法こそが、コンピュータプログラムとアルゴリズムが動作する原理そのものなのだ。
君たちが書くif文は、まさに演繹法の塊だ。「もし、変数が10以上ならば(一般法則)、この処理を実行せよ(結論)」と。コンピュータは、君が定義したルール(プログラム)に従い、与えられたデータ(個別の事象)に対して、常に100%論理的に正しい結論(出力)を返す。彼らは自らの意思でルールを曲げることはない。アルゴリズムとは、演繹的論理の化身なのである。
帰納法:事例から法則を発見する、創造の道
一方、帰納法は、演繹法とは全く逆のアプローチを取る。数多くの個別の事象(事例データ)を観察し、そこに共通するパターンや傾向を見つけ出すことで、おそらく真実であろう一般法則を推論する思考法だ。「ボトムアップ」のアプローチである。
- 個別の事象1: 私が観察したカラスAは黒かった。
- 個別の事象2: 私が観察したカラスBも黒かった。
- 個別の事象n: 私が観察したカラスnも黒かった。
- 結論(推論された法則): したがって、おそらくこの世の全てのカラスは黒いだろう。
この結論は、あくまで「確率的」なものであり、100%の真実である保証はない。明日、白いカラスが発見されれば、この法則は覆される。
そして、この帰納法こそが、現代のAI、特に機械学習モデルが学習する原理そのものなのだ。
ChatGPTや画像生成AIは、インターネット上の膨大なテキストや画像のデータ(数多の個別事象)を観察し、その中にある無数のパターン(例:「“猫”という単語の近くには、“可愛い”や“ニャー”という単語が現れやすい」)を統計的に学習する。そして、その学習結果(推論された法則)を用いて、新しい文章や画像を生成するのだ。
彼らが生み出すハルシネーション(もっともらしい嘘)は、帰納法が持つ本質的な不確実性の現れと言える。彼らは、観察したデータの中から「最もそれらしい」答えを推論しているに過ぎず、それが真実であるという保証はないのだ。
結論:二つの論理を両利きで使いこなせ
では、我々未来のIT専門家は、どちらの思考法を重視すべきなのだろうか。
答えは、「両方」だ。
- 新しいアルゴリズムやAIモデルのアイデアを着想する際には、帰納法を用いる。 ユーザーの行動ログや社会の動向といった膨大な個別事象の中から、解決すべき課題のパターンを見つけ出し、「こういう法則で動くAIがあれば便利なのではないか」という仮説(一般法則)を推論するのだ。
- そして、その仮説を具体的なシステムとして実装し、その品質を管理する際には、演繹法を用いる。 AIが守るべき倫理ガイドライン(一般法則)を定義し、そのルールに反する出力がなされないよう、厳密なアルゴリズム(分岐や反復)を設計し、AIの振る舞いを制御するのだ。
演繹法という「論理の盾」でシステムの信頼性を守りつつ、帰納法という「発見の矛」で新たな価値を創造する。
この二つの思考法を自在に行き来し、両利きで使いこなすこと。それこそが、単なるプログラマやAIユーザーを超えた、真の「AIマネージャー」であり、君たちがこの授業で目指すべき最終到達点なのである。
授業はこれで終わるが、君たちの学びはここから始まる。健闘を祈る。